第4部 理論の適用理論

 

4.1 その拡大適用 

これまでの3部にわたる議論で、本「理論人間生命学」の今段階における理論部分の全体像は、ほぼ提示できたかと考えます。そこでこの第4部では、一定程度完成したその理論の現実への適用――繰り返し述べてきたように生命事象は待ったなしですので、あえて性急に――を主題に、理論の未完成部分には留意しながらも、その実際の使い道の可能性について論じてゆきます。

そしてその先の第5部においては、残された理論の未完成部分の発展の余地について、ことに、科学のブレークスルーがおこりそうな分野について議論してゆき、本理論のより完成を目指します。

 

地球人体論

その最初の適用は、適用としてはもっとも理念的、かつ、大スケールなもので、それだけに、まだ荒削りな適用とはなるものです。

すなわち、これまで述べてきた「理論人間生命学」の理論的枠組みを相似的に拡大し、「理論地球生命学」という相同領域を想定してみます。つまり、片やは最小単位として人間を焦点に、他方は最大単位として地球を焦点にするという、同一の根本原理でつながり合う二つの相似体の想定です。

ここで「同一の根本原理」というのは、〈エコロジー〉という総括的概念でもって、連続した偏在なく広がるひとつの系を意味し、それは人体環境にも地球環境にも共に適用可能なものです。そのエコロジーを母体概念として、「理論人間生命学」と「理論地球生命学」という二つの「生命学」を、その連続的な系概念によって相互関連付けるものです。

そこで導き出される考えが、「地球人体論」とでも呼べる、人体をめぐるさまざまな科学概念を、本流から疑似にいたるまで、生命体という認識をもって、この惑星にまで当てはめてみようとの連想です。言うなれば、医学に含まれるあらゆる諸領域を、地球に対しても相似的に当てはめてみるものです。

  • ここに付け加えておきたいコメントがあります。それは、この相似的拡大適用は、地球にとどまらず、宇宙全体へにも可能であることです。この考えは、西洋では昔から「ガイア」とも呼ばれてきた思想で、一種の「神」の概念に代わるものです。東洋でも仏教において、宗教というより思想に近いものとして、「宇宙」領域への言及があります。この言わば「宇宙人体論」といった拡大適用は、東西知見の融合の舞台という観点でも重要なポイントで、むろん、後述します。

「地球人体論」にもどって、人間にはある医学や工学は、地球にとってはどうなっているのかと考えてみると、人間の外科学は地球にとっては土木工学が相当し、人間の内科学は地球の地質学(広くは地球科学)との相対応する部門があります。しかし、人間の神経科学に当たる地球の学、また、人間の免疫学に当たる地球のそれ等が指摘できますが、それらは実在しません。さらには、地球温暖化は人体の発熱症状とすら譬えられたりしますが、もともと、地球にとっての地球医学に当たるものは未発達であり、ましてや、東洋医学がいう人間にとっての「氣」に相当する発想は、地球にとっては考えられているのかどうか。

こうした視点は、次の第5部において詳しく取り上げる積りですが、そこでは、この「氣」という概念が、地球そして宇宙にまで適用可能なものなのかどうかについて、論じられるはずです。さらに、この領域について、私はすでに「宇宙の摂理」という言葉を用いて言及しており、それを総括する議論を、第5部においてあわせて展開する積りです。

こうして、人間から地球そして宇宙に至る連続体が存在するとするのなら、そこにおける統一したホーリスティックな視野は当然、存在するはずです。しかも、人間も地球も病的状態をわずらっているのなら、人間と同様に地球にも、有効な医学や医療が必要になっているわけで、その病気の予防から、さらには健康増進という、健全で前向きな発想が求められましょう。

そこで、議論のポイントは移りますが、ウクライナ戦争に端を発する新冷戦状況が、コロナパンデミックと同時並行して起こっているというのは、共に人類の疫病という共通項で結び付いてくる類推も導き出されます。そこでは、地球の健康増進という視点から、その気候変動へのアプローチの仕方――人類の不健康なライフスタイルの見直しという命題――も導き出されるはずです。

そうだとすると、たとえば「国境なき医師団」に相当するような、「国際平和のための人間団」といった取り組みすらもありえてきます。そして、ドローン武器や超高速ミサイルといった新兵器の開発ではなく、平和主義に基づく国際共存理論や実践の開発といった、平和のための“新兵器”構想の現実化です。

 

国際政治としての「国際共存理論」

以上は、適用の枠を最大化した「理論地球生命学」を主体としたものですが、最後には、そこに国際政治的議論の一抹を加わえざるをえない発展となりました。

そこで、その国際政治にも少々触れておくと、この領域を現実的かつ実務的に扱う場は、それこそ、日々の報道のトピックスを賑わす国際政治界という悶着著しい世界で、それは、本論が取り組むべき対象とはしません。

むしろ、そこでの錯綜あるいは不毛を克服するための思考枠の転換として、生命原理にのっとった「国際共存理論」としての「理論地球生命学」の適用が考えられます。

言い換えれば、人間生活を物的要素――マネーや物質的規模――からのみ取り組むのでは片手落ち、かつ、過去の枠組みであり、生命体のエコロジーとしての存続そしてその進化の視点をもう一つの腕とし、今後の枠組みとして取り組むものです。

むろん、この段階ではきわめて理念的な構想レベルにとどまっています。しかし、思考枠の転換という狙いにおいては、少なくない意味をもつ提起のはずです。

そこでさらに、この理念的提起に、より現実性を与える具体的アプローチすなわち適用として、次章のように、今日の医療世界、つまり、応用生命学における知見の東西融合の成果という新たな取り組み――総体的アプローチが重視される世界共存の発想――に着目できます。

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