直観という“思考の加速度”

前回で提示した「『理論化』3次元モデル」について、そのモデル化に際して使われている、ひとつの特徴的な見方があります。それは、私たちが普段から何気なく使っている「直観」という、私たちの脳が持っている働きについての見方です。

それを説明するには、科学史上のひとつの有名な逸話を借りる必要があります。

その逸話とは、「ニュートンは、木からリンゴが落ちるのを見て重力を発見した」と言われるものです。

どうもその逸話自体は後世の創作のようですが、それを、「リンゴは木から落ちてくるのに、月はどうして空から落ちてこない」と彼が考え、それが、天体のもつの万有引力発見のヒントとなったと説明されれば、その逸話の真偽にかかわらず、その発見の契機や意味は了解できてきます。そしてそれが、天体同士は「引力」という力をもって互いに引っ張り合っているからだという天体の運動論への発展についても同様です。

さらに、この「重力」というもの、つまり物の重さというものについてです。それは、おそらく当時(今もですが)、誰にでも身近なものとして感じられる重さというものが、一体なにであるのかとの問いを生み、その解明へと向かいます。その結果、重さというものが、地球の持つ引力のもたらす加速度によるものという物理学的な解明に到達してきたわけです。

ニュートンとリンゴの逸話については以上までですが、ここからが本議論です。

こうして解明された「重さ」ですが、この日常的には力として感じられる現象が「加速度」という物理学上の概念へと発展した経路を、この 「『理論化』3次元モデル」において、そのモデル化に応用しようと思います。

すなわち、「直観」という私たちの持つありふれた日常感覚とは、一体なにであるのかとの問いとその探究です。

そこでですが、おそらく当時も今も、誰にでも常識的に判る「重さ」が「加速度」によると説明されても、この「加速度」というものについては、誰にとってもただちに了解できるものではない、相当に抽象的なものです。

そこでですが、この「直観」について、もしそれが、たとえば、加速度ならぬ《加考度》と説明された場合、それがただちに納得される概念ではないのは当然でしょう。

《加考度》とは 何か

つまり、この「加考度」とは、思考過程における一種の加速度で、それを、力の源泉である加速度と並列させて「加考度」と考えたものです。つまりそれは、思考が行われている過程にあって、そこに一種の飛躍する「力」が発生する源泉をそう呼ぶものです。

そこで、物理学の議論に少々立ち入ってゆきますが、加速度と力との関係は、

  • 力=加速度×質量(つまり重さ)

と定義され、そして加速度とは、速度を微分した(つまり速度変化の瞬時の変化率を求めた)ものです。

それと同様に、本理論においては、

  • 直観=加考度×疑問(問題を発見してそれをなぜと感じる一種の重さ)

と定義され、そして加考度とは、思考を微分した瞬時の思考(つまり「ひらめき」)です。

ここで「思考を微分」するとは、発展してゆく思考過程を、時間的にどんどん短くして瞬時とし、その瞬間に起こる思考の内容変化です。加考度とは、そうした瞬間のいわば思考“爆発”のことで、私たちの日常感覚上では「ひらめき」として、誰もが体験しているものです。

物理学上の加速度とは、速度を時間で微分した、距離と時間の二要素による概念で、数学的概念として比較的単純に扱われているものです。ところが、加度とは、多面な思考内容を瞬時の内に凝縮させたもので、その構成要素はもっと複雑になっており、数学的に扱うには困難があります(これは私の数学的無知になる見方かも知れず、数学に詳しい人にとっては、その数学的概念化は可能かもしれません)。

ちなみに、その「直観」なのですが、私は子供のころから、そのいきなり自分の頭に浮かんでくるものが何で、どこからやってくるのか、それがとっても不思議でした。どこかで、誰かによって教えられたものでもなく、また、自分の中に以前からあったものでもない、謎の体験でした。それがようやくにして、以上のように説明できるまでに至ったということのようです。

《直思考》とは何か

さて、以上の議論にもとずき、本論でいう思考過程とは、旧来の思考過程に、上記でいう直観を加えて、両者を融合したものと考えます。

ここでそうした思考過程を《直思考》と呼ぶと、前回に示した3次元モデルについても、その各軸の変数の捉え方も、それぞれの要素を「直思考」して変数化したものでありました。

すなわち、「局地性」とは、その両極を「局地性」と「非局地性」とする変数です。また、「移動性」とは、線的には距離ですが、それが面さらには文化や思想上のさらに複雑化した諸要素をめぐる変数です。さらに第三の「理論性」ですが、これは知識を変数として捉えたもので、片極には体験としての固定した従来的知識があり、反対の極には、さまざまな体験的知識を総合し体系的に組み上げた理論があります。

前回に示した、以上の三つの変数を3軸とした「『理論化』3次元モデル」において、そこで「バーチャル地球」として示されている立体象限とは、こうした《直思考》によって得られた地球ということです。そして人間は将来、これまでの地球に加えて、この「バーチャル地球」を糧に進化してゆくだろうとの理論モデルです。

「バーチャル地球」の「場」構成

つまり、そこで「バーチャル」と呼ばれる意味とは、昨今のIT用語で言う「仮想」という意味の「バーチャル」ではなく、この《直思考》をもって創出された世界ということです。

したがって、これら「局地性」「移動性」「理論性」の3軸がなす「場」としての 「バーチャル地球」 は、従来の地球を越えて、それをおおう新次元の発展性を秘めた新たな地球像であるわけです。

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